男性の育児休業、取得状況はどのくらい? 2023年4月からの取得状況公表義務化に向けた実態調査
2023年4月施行の育児・介護休業法改正により、従業員1,000人以上の企業は「男性労働者の育児休業等の取得状況」の公表が義務付けられました。今回は、組織・人事コンサルティングファームの「セレクションアンドバリエーション」がまとめた「2019年時点における男性労働者の育児休暇の実態」をもとに、男性労働者視点での育児休業について考えてみます。
男性の子育て目的の休暇取得に関する調査研究
日本の少子化は、社会経済の根幹を揺るがしかねない深刻な状況を迎えています。政府は、男女ともに仕事と育児の両立を目指す改革として「育児・介護休業法」の改正を行いました。今回の改正では、男性の「育児休業・育児目的休暇の取得率」公表義務化のほかに、雇用環境の整備や周知、取得要件の緩和などが盛り込まれ、2023年4月から順次施行されていきます。
政府は、男性の育児目的休暇取得率を2025年までに30%とする目標を掲げていますが、現状の取得率はどのくらいなのでしょうか。2019年に行われた実態調査をもとに作成されたグラフで確認していきましょう。
■2019年時点における男性労働者の育児休業の実態
【調査概要】
セクションアンドバリエーション調べ
出典資料:内閣府「男性の子育て目的の休暇取得に関する調査研究」
調査対象:日本国内に住む20~59歳の既婚男性(被雇用者・2018年内に配偶者が出産・子どもと同居)
調査方法:インターネット調査
調査時期:本調査2019年6月
調査1:男性が育児目的の休暇を取得した割合
「配偶者の妊娠中に休暇を取得した割合」と「出産2ヶ月以内に休暇を取得した割合」について、企業規模別に集計したグラフは次の通りです。
配偶者の妊娠中に休暇を取得した男性の割合は、従業員数300人以上の企業では50%を超えています。しかし、300人未満の企業では30~40%台にとどまる結果となりました。
次に、出産2ヶ月以内に休暇を取得した割合です。妊娠中の休業取得率よりも全体的に増えていることがわかります。従業員数100人以上300人未満・50人以上100人未満・30人以上の企業で50%以上、300人以上の企業では60%以上という結果になりました。
2つの調査結果から、わかることは次の2点です。
・妊娠中よりも出産後の休暇取得が多い
・従業員数が多いほど、休暇取得率が高い傾向にある
ひとつめの「妊娠中よりも出産後の休暇取得が多い」という点については、一般的に妊娠中よりも出産後の方が人手を欲することが多いためでしょう。ふたつめの「従業員数が多いほど、休暇取得率が高い傾向にある」という点については、「個人・家族形態に起因する理由」と「所属組織に起因する理由」が考えられます。
このうち、「所属組織に起因する理由」については、どのようなものがあるのでしょうか。
調査2:男性が育児休暇を取得しなかった理由
配偶者の妊娠中よりも休業取得率の高かった「出産2ヶ月以内の休暇」について、取得しなかったと回答した人を対象にその理由をたずねました。上位5項目についてグラフ化したものが、下表の通りです。
トータルで見ると「①業務が繁忙で休むことが難しかったから」という理由が多いように思えます。企業規模別の違いについても、注目してみましょう。
■従業員300人以上の企業、50人以上100人未満の企業
5項目中4項目でその他の企業規模よりも高いという結果になりました。企業規模は異なるものの、全体的に回答の傾向が似ています。ただし、「③休暇を取得せずとも、定時退社やフレックスタイム、休業日等の活用で対応できたから」という項目のみ、明暗が分かれる結果となりました。
■30人以上50人未満の企業
「③休暇を取得せずとも~対応できたから」を選んだ人が抜きん出て多いという結果です。他項目についてもその他の企業規模より全体的に低く、比較的休暇を取りやすい環境にあることがわかります。
■30人未満の企業
唯一、「②日頃から休暇を取りづらい職場だったから」についての数値が最も高いという結果になりました。しかし、「④同僚に迷惑がかかるという後ろめたさがあったから」についての数値は最も低く、主に業務体制に課題があるだろうことが推測できます。
このように、企業規模によって回答の傾向が異なり、一筋縄ではいかない様々な課題があるということがわかりました。
男性労働者の育児休業取得をあげるために
セレクションアンドバリエーションでは、男性労働者の育児休業取得には企業の組織体制や業務体制が大きく関わっていると分析しています。今後、企業には男性労働者における育児休業等の取得状況を公表することが求められることとなりました。そのために、まずは企業の経営層が労働環境整備の重要性を認識することが必要不可欠です。そのうえで、人事部門を主体としながら継続的に改善施策に取り組んでいくべきだとまとめています。
■セレクションアンドバリエーションとは
セレクションアンドバリエーションは、「組織・人事領域」に特化した高い専門性を持つ人事コンサルティングファームです。ジョブ型雇用にいち早く対応した実績をもとに、200社以上の変革を支援してきました。「企業と個人の成長をあたりまえにする」をミッションに掲げ、企業の人事戦略策定、人事制度設計・運用、組織風土改善、経営幹部教育など、人と組織にかかる変革を促進しています。
セレクションアンドバリエーション株式会社:https://sele-vari.co.jp/
男性と女性、双方の働き方改革につながる法改正
今回の改正では、男性側の育児休暇取得率向上がクローズアップされています。男性が育児目的の休暇を取得するかどうかということは、配偶者である女性の働き方にも大きく関わってくる問題です。子育て世代の労働者だけでなく様々な立場の人々がよりよい環境で働けるように、社会全体で考えていかなければならない課題ではないでしょうか。