ロスジェネの昔と今、就職氷河期世代の働き方実態調査
独立開業支援サイトを運営する「アントレ」が、独立志向のあるアントレ会員を対象に「就職氷河期世代の働き方」について実態調査を実施。年代別・性別・学歴別による比較からそこに潜む社会課題を推測しています。この記事では、就職氷河期世代と他世代における働き方に対する考え方の違いをまとめ、そこから学ぶべき姿勢について説明していきます。
ロスジェネ最大の特徴は「男性が独立意向6割強、女性は副業意欲4割」
ロスジェネとは「ロストジェネレーション(Lost-generation)」の略で、直訳すると「失われた世代」を意味します。国や時代によって様々な世代が該当しますが、日本ではバブル崩壊からの約10年間に新卒で就職活動を行っていた就職氷河期世代を指すことが多いでしょう。
今回は、「就職氷河期世代・ロスジェネ」を1971年~1980年生まれの40代(41歳~50歳)と定義して実態調査を行いました。
就職難易度の高さ際立つ 氷河期女性は新卒時の正社員率53.8%
まずは、氷河期世代と他世代の新卒時の雇用形態について比較しましょう。
【新卒時の雇用形態】 氷河期世代女性の不遇さが顕著
氷河期世代の新卒時における正社員率は、男女ともに他世代を下回っており就職難易度の高さがうかがえます。
特に、氷河期世代女性は「正社員:53.8%」と際立って低く、「アルバイト・パート:23.1%」「契約社員:15.4%」といった非正規雇用で就職活動を終えるケースが多かったことがわかる結果となりました。
次に、現在の雇用形態について見てみましょう。
【現在の雇用形態】 氷河期世代と他世代の正社員率が逆転
現在の雇用形態での注目点は、氷河期世代と他世代の正社員率が逆転しているという点です。氷河期世代男性の雇用形態「正社員:44.7%」に対して、他世代男性では41.0%にとどまりました。
特に、新卒時に際立って正社員率が低かった氷河期世代の女性ですが、現在の雇用形態は興味深い結果となりました。まず、「正社員:46.2%」と正社員率が抜きん出て高く、他世代の女性(35.7%)を大きく上回っています。これは、男性を含め全世代で最も高い割合です。さらに、「会社経営者・会社役員7.7%」でも、全世代最多となりました。
氷河期を乗り越えた女性が出世や独立を果たしていることが推測できる一方、「派遣社員15.4%、アルバイト・パート23.1%」と非正規雇用の割合も最多となっています。それぞれの家庭環境や家族構成によって、時間の融通を含めた多様な働き方が求められているということではないでしょうか。
【現在努めている会社は、何社目】 全世代6社が最多
「現在勤めている会社は、何社目か」については、全世代で1位は「6社目以上」となりました。独立志向のあるアントレ会員が対象とはいえ、望むと望まざるとに関わらず比較的おおくん転職経験を積んできていることがわかります。
氷河期女性は、新卒での就職活動が不本意であったことがうかがえる結果となり、「1社目(最初に入社した会社で勤続)」と回答した割合は0%でした。
雇用形態への不満 世代ごとに違う理想の雇用形態
「雇用形態について満足しているのか、不満があるのならどのような働き方が理想なのか」といった質問では、各世代の特徴が明らかになりました。まずは、不満の有無から見ていきましょう。
【新卒時・現在 今日形態への不満】 氷河期世代は新卒時よりも現在に不満
雇用形態への不満の有無をたずねたところ、氷河期世代の回答は「新卒時11.7%、現在31.7%」と、現在に不満を感じている人のほうが多いことがわかりました。
先ほどの調査で、氷河期世代の正社員率は新卒時よりも現在のほうが高いことがわかっています。就職氷河期を実際に体験し苦しんできた世代だからこそ、新卒当時は「就職できた」ということ自体に安心し、満足感を得ていたのではないでしょうか。また、正社員率と満足度は単純に比例しないということもわかりました。
【希望する雇用形態(働き方)】 氷河期世代は独立、他世代は安定を求める傾向
上記のグラフは、現在の雇用形態に不満があると答えた人を対象に「希望する雇用形態」をたずねた結果です。
氷河期世代は「個人事業主・フリーランス・自由業:42.1%」、他世代は「正社員:60.0%」と、多数派には対照的な結果が出ています。氷河期世代には「雇われない働き方」への渇望があり、他世代には「安定した働き方」への憧れがあるのかもしれません。世代による特徴が如実に現れたといえるでしょう。
「働くことについて」の不安 氷河期世代は一致、他世代は多様化
就職が決まると、就職活動が終わったという安堵感が生まれます。しかし、働くことへの不安がなくなるわけではないでしょう。
次のトピックでは、「就職当時に抱いていた不安」と「現在抱いている不安」について質問しています。
【就職当時の不安】 氷河期世代は集中、他世代は分散
「新卒での就職活動を行っていた当時にどのような不安や不満があったか」という質問では、提示された項目から当時の気持ちに当てはまるものを最大3つ選択するかたちで集計しました。
氷河期世代男性では、「この会社で長く働けるか:40.4%」「やりたい仕事ではない:38.3%」「給与・収入が上がるか:36.2%」の3点に回答が集中しています。しかし、他世代男性は「この会社で長く働けるか:43.6%」が際立って多く、次いで「給与・収入があがるか:33.3%」となっていますが、そのほかの項目での割合は20%前後と低めです。それぞれの環境において、不安が多様化していることが推測できます。
氷河期世代女性の不安は、「給与が上がるか:46.2%」が圧倒的多数となっており、次いで「スキルアップできるか」「正規雇用で登用されるか」「仕事と生活のバランス」が同率(23.1%)です。他世代女性では回答が分散していますが、「人間関係:28.6%」「残業が多いなど、不規則な働き方:25.0%」といった環境に関する不安を挙げた数が比較的多くなっています。
では、「現在の雇用」に対して、同様の質問を行った結果を見てみましょう。
【今現在の不安】 氷河期世代は上昇志向、他世代は給与面に不満
調査実施がコロナ禍の不安定な情勢下だったこともあり、全世代通して「給与・収入が上がるか」という不安が最も高いという結果になりました。
2位については、氷河期世代男性・他世代男性ともに「やりたい仕事ではない:氷河期世代27.7%、他世代23.1%」となっており、現状の打開が課題となっている様子がうかがえます。
氷河期世代の女性では、同率(23.1%)2位に「独立・起業できるか」「復業できるか」「在宅勤務など働く環境を選べるか」が並びました。次のステージを見越し、現実的な課題に向き合っているということではないでしょうか。一方、他世代の女性は「将来の貯蓄・資産形成:28.6%」が2位となっており、現在の収入と老後の生活、双方に不安を抱いていることが伝わってきます。
【これからの働き方】 氷河期世代男性は独立、女性は副業を希望
現在の不満や不安を踏まえて、「これからの働き方・生き方についての考えを聞かせてください」として、提示した項目からひとつ選択してもらいました。氷河期世代と他世代の違いを見てみましょう。
氷河期世代男性は「独立・起業したい:44.7%」が圧倒的に1位となりました。これは、先に紹介した【希望する雇用形態】の結果とも連動しています。すでに独立している人も「今の独立した形でできるだけ長く働きたい:19.1%」としており、この2項目を合わせると6割以上が独立志向を持っているという結果になりました。他世代の男性では、1位の「独立・起業したい:28.2%」と2位の「現職で働きながら、副業・複業を始めたい:26.9%」が僅差で並んでいます。
一方の女性は、氷河期世代で「~副業・複業を始めたい:38.5%」が全世代最多となり、次いで「独立・起業したい:23.1%」と向上心の高さが現れる結果となりました。他世代の女性は、全世代で唯一「今の会社で会社員として定年まで働きたい:14.3%」が10%を超えており、現状に不満はあるものの独立や転職にも不安があることが推測できます。
【これからの働き方の実行予定時期】 氷河期世代は約8割が1年以内に行動予定
先の質問で挙げた「これからの働き方」を実行する時期についてたずねた結果は次の通りです。
氷河期世代は「すぐにでも:40.0%」と高い意欲を持っており、3ヶ月以内から1年以内までを合わせると80%に達しました。他世代では「すぐにでも:36.8%」が高い一方で、「具体的には決まっていない:17.9%」が2位につけており、少なくとも1年以内には実行予定がない人の割合が3割を超えています。
総括
就職氷河期世代では、新卒時の雇用形態から男女差が如実に現れていることがわかりました。氷河期世代女性の正社員率は全世代最低の53.8%、新卒で入社した会社における勤続率は0%です。氷河期のあおりを最も強く受けたのは女性だったことが推測できます。しかし、現在の雇用実態では、氷河期世代の正社員率が男女ともに他世代を逆転する結果となりました。転職などを繰り返しながら、正社員登用や出世、独立などを果たしてきた努力がうかがえます。
また、氷河期世代は個人事業主・フリーランス・自由業といった雇われない生き方を希望する割合が高く、8割もの人が1年以内に働き方を変えるために動き出すこともわかりました。過半数が正社員を希望している他世代とは対照的です。過酷な就職氷河期を生き抜いてきたことで、強い独立志向と実行力を身につけてきたということではないでしょうか。
【調査概要】
アントレ調べ
調査対象:アントレに会員登録をしている20代以上の男女 ※有効回答数:166名(氷河期世代60名 うち男性47名・女性13名/他世代106名 うち男性78名・女性28名)
調査方法:インターネット調査(2022年10月13日~11月1日実施)
■株式会社アントレ会社とは
独立開業専門サイト「アントレ」の運営会社です。個人の独立希望者や独立支援を通して事業拡大をしようとする企業・法人のパートナーとして、独立に必要な情報提供・学習支援、フランチャイズ・代理店・業務委託募集等のインターネット広告事業とイベント運営などを行っています。
株式会社アントレ: https://corp.entrenet.jp/
■独立開業専門サイト「アントレ」とは
アントレは、独立のために必要な情報を集約した独立開業専門サイトとして1997年2月に開設されました。2023年2月時点で登録会員数は34万人を超え、日本最大級の規模を誇っています。200件以上も掲載されたフランチャイズ・代理店などの独立開業プランは独立希望者のニーズに合わせて検索でき、先輩の成功談・失敗談まで含めた比較検討も可能です。
独立開業専門サイト「アントレ」: https://entrenet.jp/
■独立ワークスラボとは
独立ワークスラボとは、独立した働き方の拡大を目的にアントレ内外の調査研究を行う研究機関です。働き方に関する心理行動変容の調査やアントレに蓄積された統計・定性データの分析レポート公開、事業承継やセカンドキャリア、若手・女性の働き方をテーマとした「副業・複業・独立」へのアプローチを考えるイベントの開催などを行っています。
独立ワークスラボ: https://corp.entrenet.jp/about/fellow/
自分らしく働くためには、動き出すことが大切
今回の調査では、就職氷河期と呼ばれた時代に不遇な就職活動を余儀なくされた世代が、幾度も転職を経て正社員を勝ち取り、希望する働き方を得るために動きだそうとしていることがわかりました。それまで当たり前だった「新卒就活で正社員になる」固定観念を覆されたことが、独立志向の強さにつながったのかもしれません。
氷河期が終わっても、日本では長く不景気が続いています。先行きが不透明で収入面での不安を抱える人も多いでしょう。もしも、「独立・起業したい」「副業を始めたい」と考えているのなら、氷河期世代のバイタリティを見習って1年以内に動き出せるように準備を始めてみてはいかがでしょうか。